いま一度、通販事業社のブランディングとは?
これまで3回に渡り、通販事業社にとってのブランディングを説明してきました。
とくに、メーカーやオリジナル商品を扱う通販事業社にとって、ブランディングは販売と同等かそれ以上に重要視すべき戦略的課題です。それはBtoC、つまりエンドユーザーと直接関係性を築いていく通販事業にとって、事業を成長させながら長く継続していくための土台のようなものだからです。人間関係でたとえると、コミュニケーションを通じて自分と相手の考え方や価値観、リスペクトなどの理解を深めながら、よい信頼関係を築いていくことと言えます。
また、ブランディングは明確なKPIを設定しにくいため、担当者の感覚的な「好み」によって場当たり的になってしまうこともよくあるので、スタッフ全員で共有できるように戦略とアクションプランを可視化することをおすすめします。
今回は、過去3回の内容を踏まえて、通販事業社にとってのブランディングの重要性や注意点等を「まとめ」として説明していきます。

よいブランディングのためのアプローチ
ターゲットに対して、
「知ってもらう」
「理解してもらう」
「共感してもらう」
に区分すると戦略検討をしやすいでしょう。
もちろん、上記の3点は大まかにまとめているので、それぞれの下層には細目があり、また競合他社やマーケット状況等の外部環境も加わりますので、実際はもっと複雑になります。ですので、うまく整理してまとめないと展開ができない絵にかいた餅のようなプランになったり、また担当者が感覚的に運用してしまうことも少なくありません。前者は論外ですが、後者はその担当者の方向性が間違っていなければ短期的にはよいブランディングができるケースも存在します。しかし、逆のパターンもあり得るので注意が必要です。
いずれにしても通販事業を立ち上げて、ある程度の規模になるまでは個人がキーマンになるのはよいこと(というよりも、事業を理解した推進力のある個人:リーダーのリーダーシップが必要)ですが、さらに組織として知見を蓄積していくために、内容を具体化してチームで共有化するのが望ましいです。

一番大切なことは、まず「自社への理解」
まず戦略を立てるにあたって最も重要なのは、「スタッフが自社のことを十分理解していること」です。これがなければ、いくら経験とノウハウがある協力会社に力を借りてもよいモノはつくれません。
顧客に伝えるべき会社や商品とは何なのか。何が競合他社に対しての優位性をつくることができるのか。それらを具体的な表現やビジュアル化する段階で外部に力を借りるのはよいですが、とくにBtoC事業の経験が浅い事業社は、本来自分たちが信念をもって形にしておかなければならないところも外部に頼りがちなので、差別化すべきポイントがぶれたり、途中で何度も方向性が変わったりすることにつながります。
うまく差別化できている通販事業社にオーナー社長系が多いのは、自社のすべてを知り尽くし、信念をもって何を発信すべきかを理解しているオーナー自らがディレクションしていることが大きいと思います。

リーダーが留意すべき4つのポイント
細かな注意点は過去3回の記事で説明していますが、チームで議論をしながら方向性をまとめるリーダーは、下記4点のポイントに留意すると会議を進めやすくなります。
- ①誰(どのような層)に → ターゲット設定
- ② 何を知ってもらうか → 認知してもらうポイント
- ③ どう理解してもらうか → 深く、具体的に
- ④ どう共感してもらうか → どれくらい(定量的、定性的)
①誰に:ターゲット設定
ターゲットの設定は、年代、性別、趣向等で分類・設定することが一般的ですが、ここに「新規顧客(未会員)」と「既存会員」をかけ合わせて考えると整理しやすくなります。新規顧客獲得を目的とするときは、説明的になりすぎず差別化できるキーワードレベルにしなければ本来の目的に支障をきたすこともあるので注意しましょう。逆に、既存顧客に対してはありきたりな整った文章ではなく、個性やリアリティが伝わるような表現を心がけるべきかと思います。
たとえば、新規向けの訴求では「独自の製法」という表現でもよいですが、既存顧客に対して発信するにはこれだけでは弱いので、「○○回の工程で」「○○の項目をチェックし」「○○時間をかけて抽出」等の具体性があり優位性につながるような表現をイメージしてください。そして、このときに顧客目線で「すごい、さすが」と感じるかどうかチェックするようにしましょう。
なかには具体的な広告表現で差別化をしながら、新規顧客獲得を達成しているようなケースもあります。もちろん、そのようなレベルの高い展開を目指すことはよいですが、その際には難易度が高いことを念頭に置いてチャレンジするようにしてください。ですので、まずは定常的に目標以上のレスポンスが取れる広告展開を形にした後にチャレンジしたほうがよいと思います。
②何を知ってもらうか:認知してもらうポイント
これは、①で説明した新規顧客獲得販促に対して考える差別化・独自性ポイントのキーワードです。長尺のインフォマーシャルや紙媒体でも非常に完成度の高い広告は別として、広告スペースが限られていることや現在の通販広告の過当競争状態を考えると、早いスピードで目を引いて気に留めてもらうような強いキーワードでの訴求が及第点を得やすいのが現実です。とくに、事業を開始して黒字化するまではリソースに余裕がない事業社がほとんどであることを考えると、「ベストではなく及第点」という考え方も選択肢に持つとよいでしょう。
③どう理解してもらうか:深く、具体的に
主に、既存顧客とのコミュニケーションにおいて留意すべき点です。通販事業は、既存顧客に対してマス媒体では伝わらないような深い内容までコミュニケーションできるのが最大の強みのひとつです。その強みを活かすことなく、せっかくコストをかけて顧客化した方々に対しての情報がチープだともったいないと思いませんか?
事例をひとつ紹介します。ある通販事業社の情報誌に社員の写真を使っていたのですが、毎号同じ社員のまったく同じカットを流用していました。商品説明も、使いまわしの変わり映えのしない内容。もちろん、これでも問題はありません。しかし、ポーズや角度が違うカットのほうがより新鮮味が感じられますし、同じ訴求ポイントでも表現を変えることで顧客の理解度は深まります。あえて同様のテーマのときには、同じ社員を繰り返し登場させてアイコンにするのもよいでしょう。また、社員の文章に個性を付与するとより身近に感じてもらえます。現実離れした雲の上の別世界を感じてもらうブランディングもありますが、身近で誠実さを伝えるようなブランディングにとって、リアリティは重要な要素のひとつです。
④どう共感してもらうか:どれくらい(定量的、定性的)
これも、既存顧客とのコミュニケーション上での留意点です。ブランディングには、CPOやLTVのようなわかりやすいKPIがありません。と言うのも、売上や利益などのKGIに直接結びつけて評価することが難しいからです。複合的なプロモーションのひとつの要素として組み込んだり、中長期的に展開する側面が強いため、二次的効果しか評価しにくいことも理由のひとつかもしれません。ビッグデータ解析のような複雑な分析手法でKPI化することは可能でしょうが、それをするためには必要なデータ=実際のプロモーションを数多く積み重ねた事業社でなければ中途半端な結果しかでないでしょう。そもそもプロモーション上のブランディング要素すべてを、売上や利益貢献に結びつけて評価すること自体が正解ではないように思います。そのような曖昧さを含み、感覚的に捉える部分が多いブランディングだからこそ、各社に応じた評価項目と客観的な指標をつくらなければなりません。

通販事業社のブランディング 「まとめ」のまとめ
ブランディングは、販促(新規顧客獲得と顧客活性)に比べて曖昧で不安定な要素が多いのは事実です。その不確かな状態のまま、大切な事業コストを費やすことは大きなリスクにつながります。不定形なものだからこそ、逆にしっかり形づくって推進していくことが必要です。短期的には効果は見にくいですが、ビジョンを具体化し信念をもって積み重ねていくことが、多くの競合他社の中で無二のブランドを構築する方法だと思います。