直接エンドユーザーと取引を行うBtoCにとって重要なもの
ネット環境、受注から配送・代金回収までをまとめるシステム、流通等の発達により、通販市場がとくに急拡大をしてきたのが、ここ10年と言えます。その流れに伴って、扱う商品や通販ビジネスモデルも多様化してきました。ITによる恩恵は非常に大きいと言えますが、とくにエンドユーザーと直接取引を行うBtoCの場合は、機械に任せきれない、人材と組織の重要性が高いのです。
プロモーションやコミュニケーションのツールとしてシステムや機械を介しても、人と人とのやりとりが土台となり、逆にシステム化によって、この「人材と組織」と言う基本原理を見落としてしまうという危険性もあるのです。前回までは、通販事業を立ち上げて黒字化を達成するまでの大まかな注意点などを説明してきました。今回からは、通販事業を推進していくうえでの人材や組織についての概要や注意点、事例等を説明していきたいと思います。

通販事業を推進する核「人材と組織」
通販事業だからと言って特殊な能力や複雑な組織構造は必要ありませんが、事業の特徴に合わせた人材や組織を設計して運用=成長させていくことが必要です。また、組織よりも人にノウハウが蓄積されやすいことを考えると、事業を運営・成長させながらノウハウの蓄積(成長)が偏らないようにする組織運営も考えなければなりません。言わば、人材と組織は通販事業を推進する核であり、より強固にしていくための両輪とも言えるでしょう。
通販事業の機能はさまざまあり、それぞれの役割で適性は異なります。また、事業社がどの機能をどれくらい内製・外注しているかによって社内のどのような人材を配置するかは変わるので、一概に捉えることが難しいと言えます。そこで、この「人材と組織」のテーマでは、通販事業社の企画部門を中心にし、通販ビジネスのスタイルはBtoCでオリジナル性の高い商材(化粧品、健康食品、食品等)を想定して説明していきます。

1)人材について
「通販事業に適している人材は?」とよく聞かれます。これは、一言ですべてに通じる人材像を答えにくい質問なので、いくつか共通するポイントとなるような要素を挙げてみましょう。
①好奇心が強い
通販事業は極論すると、CPOとLTVという2つの数値(KPI)で運用します。多くの書籍を読めば読むほど、この構造を「シンプル=簡単」だと感じる方が多いと思いますが、そこが大きな間違いであり、人材が成長しにくくなる落とし穴でもあるのです。構造は非常にシンプルですが、数値の裏にある原因や、それらから得られる仮説や対策等を探求しなければ、事業が収縮していくのです。
よくある事例ですが、適性の低い人材がCPOを管理しながら運用していくと、出稿媒体がどんどん減っていきます。CPOのみを気にしながら業務を行っていけば、このような結果になるケースは意外に多いのです。どのようなことかと言うと、CPOが悪い媒体の出稿を停止すれば目標値は維持できますが、出稿媒体は無限ではないので、本来事業成長の投資機能である新規顧客獲得の実数が減っていくという、本末転倒とも言えることになってしまうのです。
現場経験がない、あるいは少ない方は、「そんなことにはならないよ」と思うかもしれませんが、実際に現場を運用しているスタッフを「きちんとした管理者の目」で見てみれば、このようなケースが非常に多く発生していることに驚くと思います。目標CPOを維持しながらも、1年くらいで出稿規模が半分以下になるというケースも現場ではよくあることです。数値のみにとらわれずに定性的な側面を併せて考えられ、そして現状から具体化・可視化していない要因を仮説立てて課題設定していくには、関わる人材にある程度の好奇心・探求心のような要素が必要となってくるのです。

②顧客志向・自社(商品)愛が強い
これは、精神論を言っているのではありません。長く通販ビジネスに関わってきたうえで、効果的に事業を成長させていくために不可欠だと言い切れます。では、精神論ではない顧客志向・自社愛はどのようなことを見ればわかるのでしょうか。これは社内外の会議や社員同士の会話を聞けばすぐにわかります。
「お客さま」が主語になった会話がどれだけされているか。制作や企画提案をする際に、自社や商品の説明をどれだけできているか。新規で取引を開始し、企画提案を要請するときに商品パンフレットを渡すのみ、というようなやり方では、提案する方の理解も追いつきません。通販=ダイレクトマーケティングは、事業社とエンドユーザーが直接やりとりできることが最大の強みのひとつですが、逆に発信元の熱意が低い場合でも直接伝わってしまいます。
スタッフの熱意=心を打つ情報が伝わらなければ、エンドユーザーが商品を購入するわけがありません。オリジナル商品であれば、よりその傾向は強くなります。通販事業の仕組みを理解できていて、セオリー通りに進めてもなぜか状況や業績が改善しない場合は、表面的な小手先の戦術ではなく、人が人に伝えて共感・期待してもらうには何が必要かを、いま一度見つめなおしてみるのがよいと思います。そんなときには、「顧客志向・自社愛」という人材選定の基本とも言える部分が不足している場合もあるのではないでしょうか。

③きめ細かいことができる
スタッフ人数が増えると、大雑把な方やきめ細かな方が混在してもトータルで「つじつまが合えば」よいのですが、基本的な適性として、きめ細かやかさはやはり重要ポイントと言えるのではないでしょうか。
つまり、きめ細かさがなく大雑把な方の不足分は他のスタッフがサポートし、組織として一定レベル以上なければならないという意味です。その理由は、通販事業は常に数値を取り扱うからです。「数字は嘘をつかない」とよく聞きますが、数字を使って嘘をつくことは簡単にできます。もちろん、意図して欺くことはないというのが前提です。しかし、集計の区分や方法ひとつ変われば、場合によっては真逆の結果を数値化することもできてしまいます。
しっかりと課題を捉え、その課題を把握するためのデータとしてどのような分析をするか。また、多様な属性の顧客に対するコミュニケーションも、相手の立場を想像しながら行い、自分とは感性や商品使用の実感が異なるターゲット層に対して気を配ることも重要です。ただし、「きめ細かさ=完璧主義」ではありません。「きめ細かいことができる」ということが重要であって、すべてに関して解決しなければ前に進めない、いわゆる完璧主義的思考は要注意です。きめ細かさを基本とし、判断に必要なポイントを見極め、判断材料がすべて揃っていない状況下においてもリスクも含めて前進するスピード感は重要なのです。
人は成長し、長所や短所は変化します。事業を取り巻く社会環境やインフラも、急激に変化しています。本来は、事業社ごとのビジネスの方向性や人材を含めたリソース等の現状をもとに組織の検討や設計をすべきなのですが、このように共通するポイントや注意点等がお伝えできればと考えております。次回以降も引き続き、通販事業においての「人材と組織」の内容を説明していきます。