「京王社」のDMC部に配属された新人2人。日々忙しく仕事に追われているが、今日はハマちゃんが朝からソワソワ落ち着かない様子。その雰囲気に耐えかねてヤマちゃんが問いただす。
「ちょっとハマちゃん!どうしたの朝からソワソワして。こっちも気になって仕事に集中できないわ!何があったのっ!」
「えっ!ばれた?」
「ばれたって何がよ。何が気になってるのっ!」
ニヤニヤしながら、とぼけたことを言うハマちゃんにヤマちゃんが怒る。
「いやー、これは恋かなぁ?恋なんだよなぁ、やっぱり」
「何それ!この間配属されたばっかりよ!誰を好きになったの!」
尋問のような剣幕でヤマちゃんが詰め寄る。
「うーん。総務のミホちゃんなのだけど。うわっ。言っちゃった。恥ずかしー」
「えーっ、あのミホちゃん?無理だと思うわ。絶対!」
「わー、どうしよう。ねえヤマちゃん、どうしよう」
慌てるハマちゃん。
「なんで私がハマちゃんの恋の相談に乗らなくちゃいけないのよっ」
「えー、お願い。お願い。お願いぃ~」
あまりのハマちゃんの懇願ぶりに情にほだされたか、気は進まないまま相談に乗るヤマちゃん。渋々と。
「で、どうなの?自己分析はできているの?ミホちゃんへのアプローチ戦略は?」
ヤマちゃんに問われ、もじもじとして何も返せないハマちゃん。
「もー、じゃあSWOT分析で自分とミホちゃんのことを分析してみたら」
「おー。SWOT分析。知ってる知ってる」
「知ってるじゃないわよ。どんな分析か言える?」
また口答試験のようなやり取りが始まる。
「まず内部要因と外部要因に分けて、それぞれのプラスとマイナス要素を抽出するんだね」
「そうね。図で表すとこんな感じ」

「まず内部と外部の環境で、プラス要因とマイナスの要因をピックアップしていくのよ」
- 内部環境-プラス要因-Strength(強み)
- 内部環境-マイナス要因-Weakness(弱み)
- 外部環境-プラス要因-Opportunity(機会)
- 外部環境-マイナス要因-Threat(脅威)
「それぞれの頭文字をとってS・W・O・T分析というの」
「なるほど。SWOTに合わせて要素をピックアップしていけばいいんだね」
「でもね、ただやみくもに項目を埋めていっても時間と労力がむだになってしまうのよ。何のためか課題をハッキリさせて、漏れなくダブりなく要素を抽出することが大事」
「うん。うん。よくわかるよ」
「けど、それだけじゃ戦略にはならないわ。要素のピックアップがすんだら、Opportunity(機会)とThreat(脅威)の横軸に、Strength(強み)とWeakness(弱み)の縦軸を重ね戦略を作っていくの。たとえばこんな風に」

「ほら。こうして重なった部分を考えていけば戦略が立てられるでしょう。SWOT分析は『強みを生かしてチャンスを勝ち取る法則』なんて言われていて、企業の事業策定や商品のマーケティング戦略を練る際によく使われているのよ」
「うーん。ホントだ。ミホちゃんへの効果的なアプローチ戦略もできそうだね」
SWOT分析による戦略立案に感心するハマちゃん。
「じゃあ実際に考えてみるわよ。ハマちゃんがミホちゃんに会う時はどんな時で、そこでのハマちゃんの強みは何なの?」
「えーと。普段の出会う機会は書類の受け渡しとか領収書の提出の時とかで、強みは……何だろ。颯爽とスマートに振る舞うことかな」
「なにそれ。まあいいわ。それでその時の弱みって何なの?」
「書類の記入ミスとか、領収書の差し戻しとかで小言を言われることかな。へへ」
「……ま、まあいいわ。次に脅威。ハマちゃんにはどんな脅威があってそれに対する強みは?」
「脅威はねえ、よく営業部の体育会系イケメンがミホちゃんに親しげに話しかけているんだよ。それで僕は体格では負けているけど、昔っから根性はあるんでそれでは負けてないかなって思っているよ」
「……ふーん。で、弱みは?」
「体育会系イケメンは楽しく会話なんかしちゃっているけど、ボクはミホちゃんの前に出るとドギマギしてしまって、なにも喋れなくなるんだ」
話を聞くと、戦略を練るまでもなく悲惨な状況だということがよく分かる。
「……ゴメン。ハマちゃん。もう終わっているわ。その恋」
「エーっ」