事業を効率化する通販システム
今回からは、通販事業をバックグラウンドで回してくれるシステムについて説明していきます。
通販事業を立ち上げると同時に稼働させなければならないのがシステムで、通販事業では通常「フルフィルメントシステム」と言い、受注から代金回収までの一連のプロセスを連結した機能を意味します。簡単に言うと、通信手段(電話、はがき、ネット)で注文した商品を配送し、その代金を回収するシステムのことです。通販市場が成長し続けるなか、とくに社会情勢の急激な変化も伴ったここ数年でシステムは大きく進化し、それまではお取り寄せ等の限られた用途で利用されていた食品分野での飛躍的な充実には驚くほどでした。
受注し、配送と代金回収をコントロールし、モノを販売するための分析とプロモーションを支える通販システムは、黒字化という、それ以降の事業をより成長させるための重要な転機でしっかりと検討していただきたいテーマと言えます。

通販システムの変遷と現在
いまでこそ成長分野である通販市場ですが、30年前はまだまだ規模が小さく、システム、情報、協力会社等すべてにおいて選択肢は少ない状況だったと聞いています。つまり、頼りになるプロが外部にいないという状況でした。当時有名な通販事業社の多くは、手探りで通販の仕組みを学んだ経営者達が采配を振っていたとのこと。そしてシステムも、フルフィルメントをパッケージしたソフトはもちろん、いまでは一般的なクラウドベースで簡易に使えるものはほとんどありませんでした。いまやシステム部門の方以外には補足説明をしなければ理解できないであろう、Windowsより前のOSであるMS-DOSベースでシステム担当者が改修しながら運用している事業社が多かったと思います。
それ以降の市場の成長に伴い、事業を円滑に進めるためのさまざまな機能が充実し続けるなか、システムもその例外ではなく、現在では提供されているツール・ソリューションを活用すれば個人でも簡単に通販事業を立ち上げることができる環境です。反面、通販ビジネスが多様化するとともに、システムを含めたさまざまな機能も細分化しており、自社の事業にフィットしたものを選択する必要性も高まってきています。

通販システム選定での重要ポイントとは
いまでは手軽に活用できる通販システムですが、どれを選んでもよいというわけではありません。当然、事業の展開の仕方によって選定のポイントは変わってきます。事業の展開の仕方には、たとえば、通販モール等への出品をする「通販」ではフルフィルメントはモールの機能を使い、自社で行うのは在庫管理や商品登録と出荷のみというケースもあります。一方、自社ですべてを行う場合は前述した受注から入金までがパッケージされたフルフィルメントシステムを使う、大きく分けてこの2パターンがあると思います。
本記事では自社顧客蓄積型の通販事業を取り上げていますので、ご説明していくのは後者のパターンでのシステム選定となりますが、とくに注意していただきたいのはリピートに関する機能です。また、フルフィルメントの捉え方は各社によって異なり、一般的には「受注から入金まで」とは言いますが、実際に事業を運営していく上ではプロモーション・分析が不可欠となるため、ここがシステム選定の重要な検討ポイントとも言えます。

システムでのプロモーションのサポート機能を考える
プロモーションとは、簡単に言うとブランディングを含めた販売促進活動ですが、通販においては売上をつくる2つの柱である新規顧客獲得とリピート促進と捉えてよいと思います。受注を受けて出荷し入金までを管理するフルフィルメントの機能は、「通販システム」で検索して上がってくる候補のほとんどに備わっていますが、自社顧客を蓄積し、そのリピーターの売上によって利益をつくっていく通販事業社にとっては、受注から入金まではあくまでデータ処理の道筋です。肝心なのは、新規顧客獲得を行う流れと既存顧客にリピート購入をしてもらう流れ、この2種類のプロモーションをどれくらいサポートしてくれるか、という点にあります。
たとえば、新規顧客獲得販促であれば、広告出稿の結果の分析や効果的に分析を行うためのプロモーション管理の仕組みの有無。リピート販促も同様に、既存顧客に対する販促手段のサポートと分析がポイントとなります。多くのクラウドベースのシステムを見る限り、私個人の印象ではとくに「顧客管理=リピート販促」をサポートする機能が不足しているように感じます。

分析の際に重要なポイントとは
通販事業のプロモーションでは、顧客データを蓄積してデータベース化し、分析することによってさまざまなプロモーションを展開していきます。現場寄りの言い方をすると、新規顧客獲得や既存顧客のリピートはそれぞれに必要な分析によって顧客の状態を把握して問題点や改善点を可視化し、客観的なデータに基づいたプロモーションを実施→検証→再実施というようにPDCAを展開していきます。しかし、システムに備わっている分析メニューにある分析結果から検討をスタートするのではなく、まずは「自社の顧客をどのような切り口で捉えるか」という点を明確にしておく必要があります。つまり、必要なのは「我が社は顧客をどのようなポイントで見ていくか」という議論です。
ストレートな言い方をすると、汎用的なシステムに備わっている分析機能では俯瞰視点での概況は把握できますが、事業社によって異なる顧客視点にはフィットしないことが多いのです。これはフリーサイズの洋服のようなもので、多くの方が着ることはできるものの気持ちのよいフィット感は得られない、という感じでしょうか。通販は、顧客数の増加に伴って1回あたりのプロモーション費用も大きくなります。この費用を使う企画の土台となるのが分析データなので、フリーサイズではなくオーダーメイド的な分析を行うためには、自社の顧客と購買する商品をどのように捉えるべきかという「計測」をしておかなければならないということです。実際に、自社顧客と商品の捉え方が一定レベル以上明確になっている事業社は、メニューにある分析機能は活用しつつ、同時にスタッフが自ら自社顧客の見るべきポイントを考えながら分析をしているケースが多く見られます。

「現場運用の工夫」の弊害
分析はシステムの重要な機能のひとつですが、いわゆるフルフィルメントの機能とも関わりがあるので注意が必要です。前述した「オーダーメイド的な分析」と同様に、事業社によってプロモーションのやり方は異なります。キャンペーンのプレミアムや値引き方法等もシステムに備わっている機能でさまざまな施策が行えるようになりましたが、設定にないロジックでのプレミアム付与や値引き計算をしたほうがよい企画を実施できるということはよくあります。そのような場合に別品番を取って別商品として運用する、いわゆる企画を実施するために工夫してシステム機能にないキャンペーン対応をするというようなケースです。これにより狙い通りのキャンペーンは実施できますが、本来は同じ商品を別商品として扱うことで、分析面に影響が出る可能性があります。
こういう運用の工夫は現場では多く見られ、クラウドベースの汎用的なシステムを使う上では仕方がないのですが、注意しておきたいのは分析面にどういう影響を及ぼすかをあらかじめ考えておき、関係者間で綿密に情報共有しておくということです。スタッフの人数が少ないうちは、企画担当者と現場を調整するスタッフが同じだったり、情報共有しやすかったりしますが、事業規模が大きくなりスタッフが増えて担当業務が明確に分かれれば、現場運用と企画・分析スタッフ間での情報共有が薄くなりやすいのです。
次回も引き続き、システムをテーマに説明をしていきたいと思います。