軽視しても、振り回されてもNGなのが、「ブランディング」
新たに通販事業に参入した事業社の場合、最初の目標を「黒字化」とする企業は多いと思います。その目標達成のために、新規顧客を獲得しながらリピートする仕組みの構築に尽力するのですが、一方で「ブランディング」という要素も捉えておかねばなりません。
ブランディングは、ブランド認知を通じて顧客からの共感や信頼を高めていくマーケティング要素のひとつとされています。通販事業のスタイルは多様化しており、その方向性や戦略によって、構成されるさまざまなマーケティング要素の重要度は異なりますが、とくに付加価値が高いオリジナル商材を扱うのであれば、「ブランディング」という考え方は重要です。しかし、CPOやLTVといった主に費用対効果を計測するKPIで運用される通信販売では、短期的な採算評価がしにくい「ブランディング」は軽視されがちなので注意が必要です。また逆に、「ブランディング」という言葉に踊らされて、効果測定も考えないままに無駄に費用を投じるのもよいマーケティングとは言えません。
通販事業を展開するうえでのブランディングについて、どのように捉えればよいのか、現場でどんなふうに展開するのかということを、これから数回に分けて解説していきたいと思います。

事業を始める前にしっかり検討しておくべき「ブランディング」とは?
ブランディングとは、他社や競合商品と区別・差別化するための実態とその情報をまとめ、これらを媒体等を活用したコミュニケーションを通じて顧客に伝達し、顧客の中の企業・商品イメージを具体化していくこと。要するに、●自社(商品)のことを把握し、●それをどのように伝えるかを考えて情報発信・コミュニケーションを行い、●実際に伝えた相手=顧客がどのように捉えてくれたかを測定・理解すること、と言うとわかりやすいのではないでしょうか。
通販事業社の中でも、とくに健康食品や化粧品・食品等で多く見られる付加価値の高いオリジナル商材を扱う企業は、事業を始める前に事業計画とともにブランディング戦略をしっかりと検討しておかなければなりません。メーカー系や商品開発をきちんとした事業社の多くは、ブランディングの核となる実態と情報がある程度存在しており、重要視している企業も多いのですが、それらを整理し顧客に発信するときにどのような表現を使い、どれくらいの費用を使ってどのように評価するか、というような戦略と戦術の具体性が欠けていることもあるので、事前のしっかりとした検討が必要なのです。

通販事業における「ブランディング」のポイントは?
通販事業は言葉の通り、通信手段を用いて商品を届けるビジネスモデルです。いくつかあるメリットのひとつに、エンドユーザーと直接マーケティングができる「ダイレクトマーケティング」があります。昔は、通販=ダイレクトマーケティングでしたが、インフラやプラットフォームの充実に伴う事業モデルの多様化により、通販をしていてもエンドユーザーと直接マーケティングをしない形態もあるのが現状です。たとえば、ネット通販の大手ショッピングモールで販売する「通販」だと、エンドユーザーとの直接やりとりは大きく制限されます。
ダイレクトマーケティングは、きめ細かなブランディングをしやすいということも忘れてはいけません。通信販売でのブランディングを考えるときには、大まかにエンドユーザーにとっての「認知/理解/共感/信頼」に区分するとわかりやすいかもしれません。そして、さまざまな媒体を通じて発信する情報について、●自社のターゲットとなるのは誰なのか、●ターゲットの状態に対して適切な情報・メッセージは何なのか、●どこに重点を置いて発信すべきなのか、●検討しているプロモーションはターゲットに対してどのような効果を期待するのか、等を考えると、ブランディングを意識したプロモーションの整理がしやすいでしょう。

ブランディング戦略検討のための3プロセス
ひとことでブランディングと言われても、どのように戦略を考えればよいかわかりにくいと思います。自分たちが理解しているこだわりポイントを場当たり的に発信していくのではなく、計画的に展開していくことは、それなりの経験がなければ難易度が高いからです。実際の検討に関しては外部からでも経験者を頼ることをおすすめしますが、全体像をイメージしてもらえるように大まかなプロセスを説明していきます。
1:自社内に存在する情報の整理
まずは、商品や自社に関する情報を集めます。製造を外注している場合は、外注先の製造工程に関する情報も収集します。ここでのポイントは、「すべての情報を集める」ということです。ブランディングと言うと、差別化や優位性等に絞って考えがちですが、この段階ではあまりフィルターをかけないほうがよいでしょう。自分たちが普通だと思っていても、伝え方を工夫すればユーザーから信頼を得られるような情報になったりするからです。
2:情報の整理と拡充
集めた情報を区分して整理しながら、差別化ポイントを選定します。ここでのポイントは2つあります。
1つめは、「第3者目線で検討する」。差別化のポイントは意外と当事者よりも第3者のほうが評価しやすく、BtoCの経験が少ない事業社であれば、ユーザー視点が不足しがちという意味でも重要です。自分たちは価値が高いと思っていることがユーザーの琴線には触れず、逆に当たり前と思っていることでも差別化につながることは多くあるからです。
2つめは、「拡充をする」。ブランディングをするための情報整理を事業開始前に行う意味は、このためにあります。つまり、「差別化できる事実をつくる」ということです。本末転倒のように感じられるかもしれませんが、ブランディングはマーケットで他社と競合していく中で優位性をつくることが目的なので、伝えるために実態をつくることはまったく問題はないのです。
3:表現の制作
ブランディングするために集めて整理・拡充した情報を、表現ベースに落とし込む必要があります。これは、広告のクリエーティブ制作をイメージするとわかりやすいと思います。1・2でまとめたものは、そのままだと事業社の主観が強くなりがちなので、情報によっては専門的すぎて伝わりにくいものも少なくありません。ですので、それらの情報をユーザー目線で加工しなければなりません。実際にはブランディングの場面に応じて表現の制作をしていくので、ここではあくまでもそのベースになるレベル、「製造における半製品のような情報整理」と考えるとわかりやすいでしょうか。

情報も差別化し、ユーザーに“美味しく”提供する、それがブランディング!
今回は、通販事業でのブランディングをどう捉えるか、ブランディングを行っていくための最初の準備には何が必要か、について説明しました。
オリジナル商品を差別化戦略で展開していながら、ブランディングに対しての意識が低い事業社は多いように感じます。お話を伺うと、「品質にはこだわっているが、自社には差別化できるような実態がない」「訴求するべきことがないので、そのようなリソースがある企業がうらやましい」というような返答をされることもあります。しかし細かくヒアリングをすると、表現を工夫すれば差別化できるような実態や、情報収集や差別化検討の不足が背景にあったりするのです。せっかくエンドユーザーと直接コミュニケーションができる通販事業なのですから、ありあわせの事実や情報だけをそのまま提供するのではなく、それらをきちんと料理して美味しく召し上がっていただけるような工夫をしていくべきでしょう。ブランディングの効果は瞬間的には見えにくいですが、続けることによって確実に大きな他社優位性をつくることができるからです。